ホロヴィッツの ピアノ奏法分析
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    Vladimir Horowitz

     ウクライナ生まれのアメリカのピアニスト。
     義父 (妻の父) は名指揮者として知られるアルトゥーロ・トスカニーニ。

     (wikipedia より引用)


     ウラディーミル・ホロヴィッツのピアノ奏法


  指を寝かせて運動量を少なく。
  鍵盤から2cmほどしか指を離さない。
  大きい音がキンキン響きやすいので、
  右手のメロディーを浮き立たせるときは、OK奏法。

     ホロヴィッツのピアノはいろいろな意味で個性的と言われますが、

     その源は、フランツ・リストに匹敵した偉大なピアニスト、
     アントン・ルビンシュタイン (1830~94) に行き着きます。

     アントン・ルビンシュタインは、伸ばした指で弾く重量奏法の先駆者で、


     「ピアノを人声のように歌わせる奏法を持ち、
     温かさ、華やかさ、ロマンティックなときめきなどを聴き手に伝えた」

     「彼の手から生まれる音が詩的な美の極致に達する時、それは器楽的
     ベル・カント(美しい歌の意)の偉大な芸術である事を人々は理解した」


     と当時評されていたそうです。


     ちなみに、ホロヴィッツの特徴である、伸ばした指は、

     「ショパンのスタイルをラフマニノフの時代へと続けた技巧派ピアニスト」
     と評された

     フェリックス・ブリューメンフェルドの指導によるものです。



  ホロヴィッツのピアノ奏法分析


     「ホロヴィッツ・イン・ウイーン」 というDVDの映像から、
     指の動きを分析してみました。


   ●座り方

     椅子とピアノの位置関係は、近すぎることも遠すぎることもない、適正な位置
     と言えるでしょう。

     背筋はまっすぐ伸ばして肩の力を抜いて座っています。
     腕の重さが、ストレートに肘と手の平に伝わっています。

     右の写真は、やや前傾姿勢ですが、背筋が伸びて、
     猫背にはなっていないことから

     上半身の重みを腕に加えるためと推定されます。

     鍵盤の位置に対して、肘はやや下がり目 (その分椅子は低め)

     鍵盤に正対したまま、演奏中はほとんど上体を動かさない。

     ちなみに、鍵盤に対して手首が低いのは、ppでレガートを弾くときに、
     音量のコントロールをしやすいためと思われます。


   ●奏法

     伸ばした指と、立てた指、主に2種類使い分けています。

     さらに、響きに対してとても敏感で、出したい音色によって、手首の位置も変え、
     タッチを使い分けています。

1.寝かせた指で鍵盤を沈める。(写真 左手) 2.猫の穴掘り。(写真 両手)
3.指を立てて、垂直に振り下ろす。
(写真 右手)
4.横から見ると、
  ひらがなの「へ」の字。


   ●印象

     鍵盤の上で、両手でタクトを振る指揮者。
     大きな音も小さな音も、密度の高い音を合理的な動きから出しています。

     ほとんどの写真で、右手と左手の形が異なっています。

     メロディーと伴奏の音色に差をつけ、音量だけでなく、音色で表現したいラインを
     明確に浮き立たせています。

     また、「緩から急へ」 メリハリをつけていて、音に律動があります。

     一本調子な演奏とは対極に位置します。


   ●親指

     親指は鍵盤に平行。
     アシュケナージと同じく、親指を寝かせ、爪の外側を当てています。

     (斜めにならない)

     しかし、硬い音が欲しいときは、やはり親指は斜めに使っています。
     手首の位置が、高くなっているところに注目。


   ●指の運動量

     指の届く範囲内なら、ほとんど動きが見られません。

     自動演奏のピアノの上に、ただ指を乗せているだけに見えるほど、
     無駄な動きは徹底的に排除されています。


   ●使う関節

     基本的には第3関節を軸に弾いています。
     しかし、右の写真のように第2関節で弾くことも多く見られます。

     黒鍵を弾いているときと、白鍵を弾いているとき、小指の付け根の位置が
     ほとんど変わりません。


     この奏法に興味を持たれた方は、ぜひ「DVDの映像」もご覧になってください。

     (同じ映像が見つけられれば、youtubeの映像でも可)

     当ページを スマートフォン などで表示して、この解説を見ながら
     DVDの映像 (スロー再生) でホロヴィッツの手の動きをよく観察すると、

     「この音色を出すには、この動きなのか!」 というのがわかります。


  雪の日のホロヴィッツ ( 「ホロヴィッツ」 からの引用)


    雪の日のホロヴィッツ

    ホロヴィッツとメロヴィッチ(当時のホロヴィッツのマネージャー)はハンブルグ市の
    名高い動物園を散策して、静かな一日をすごした。

    雪になりはじめ、ふたりは冷えきった体をひきずって、ホテルへと向かった。
    ロビーに入ると土地の興行師が待ち構えていた。

    ふたりをみつけるや、ホロヴィッツにはわからないほどの早口のドイツ語で、
    彼が何かまくしたて、はげしい身振りでしきりに何やらせきたてるのである。

    そのマネージャー朝からふたりを捜していたらしい。

    ハンブルグ・フィルハーモニックとの協演を同夜に予定していた女流ピアニストが
    総練習中に失神し演奏不可能になったので、ホロヴィッツに代演を依頼するためだった。


    「一世一代のチャンスだよ! どう思う?」

    疲れと冷えに加えて、予想だにしなかった申し出に、度肝を抜かれたホロヴィッツは、
    たじろいだ。

    「演奏会は何時ですか?」と心配気に彼は尋ねた。

    興行師は、演奏会はもうすぐに始まるはずで、休憩直後に弾いてもらうには、
    45分以内に来てもらわなければ、という。

    「よし、じゃあ、チャイコフスキーのコンチェルトだ。オーケストラには総譜とパート譜は
    あるでしょうね。ミルクを一杯たのむ」
と彼はてきぱきと言った。

    ひげを剃り、着替えをすまし、彼は心の中で楽譜を復習したが、
    二週間前のベルリン交響楽団との協演以来、この曲の音符はひとつたりとも
    弾いていないことは、わかりすぎるほどわかっていた。


    ホロヴィッツは、息を切らせて演奏会場にかけつけた。

    時あたかも、前半最後の曲、ベートーヴェンの第六交響曲(田園)の最後の部分を、
    指揮者オイゲン・パプストがしめくくっているところだった。

    パプストは、いったい、続きの後半があるのやら、あったとしても何を振るのやらすら
    も知らなかった。

    そして、休憩に楽屋に戻ったパプストは、ウラディミール・ホロヴィッツとかいう男が
    同夜の独奏者であると知らされた。

    聞いたことすらない名なので、パプストは、ただいらいらした様子でうなずいただけで、
    挨拶もせず、ホロヴィッツを冷たい目で見やった。

    そして、楽譜を広げ、ふたりに共通のフランス語で、指示を与えはじめた。

    彼は言った。「なあ、君、ここんところ、こう振るよ。これがあたまのテンポだ。ここはこうだ。
    ここではちょっとリタルダンドだ」


    「ウィ、ムッシュ、ウィ、ムッシュ」ホロヴィッツは調子に合わせて返事をし最敬礼をした。

    舞台へ出る直前、パプストは、まるで子供にでも言うように、最後の言葉をつけ加えた。

    「僕の棒をよくみてるのだな、君、そうすりゃ、大して、ひどいこともおこるまい」


    オーケストラの短い導入がすんで、ホロヴィッツが強烈な和音を弾きはじめるや
    パプストはくるりと振りむき、鍵盤を前にした男を、あわてふためいて、みつめた。

    さらに何小節か進むと、パプストは指揮台からまったく離れてピアノの方へ近づき、
    信じられないという面持ちでホロヴィッツの手を見ながら放心状態で指揮をしていた。

    第一カデンツァが終わるまでのパプストの顔は報ぜられたところによると、

    信じられないという表情を絵に描いたようだったそうで、その指揮はホロヴィッツの
    テンポに合わせ、ただ機械的に拍を打つだけだったという。

    音の洪水はひきもきらず、曲尾が近づく頃には、指揮者・オーケストラともども、
    陶酔にひたり、圧倒された聴衆は我を忘れんばかりだった。


    全聴衆は全曲の終わる二小節前に総立ちとなり、万雷の拍手と歓声をおくった。
    ブラヴォーの叫びが起こり、プログラムが振り回された。

    パプストはホロヴィッツへと走り寄り、その肩をつかむと、何回も彼を抱きしめた。


    ・・・・・ 「あれが、私の運の変わり目だった。」と後年ホロヴィッツは述べている。

    「もしあの演奏会がなかったら、私の演奏歴もたいしたものには
    なっていなかったかもしれないね。こればかりは、誰にもわからない。

    上手に弾いたというだけじゃ駄目なのだ」



    引用元 『ホロウィッツ』 ブラフキン



  ホロヴィッツが新しい曲に挑戦するとき ( 「普段着の巨匠たち」 からの引用)


    まず作曲家のすべてを学ぶことから始める。彼の全作品を弾いてみる
    アンサンブル用の曲もとにかく全部を弾く。

    レコードを聴くんじゃない。自分で弾くのだ。私は 初見の大家 だからね。

    全作品を弾くには、理由がある。
    曲の大小に関係なく、そこにこめられた作曲家の気分は同じだ。

    弾けば、その曲の持つ感情がわかる。その曲の本質が私に語りかけてくる。
    つまり、持ち味がわかるのだ。

    ある作曲家は勇壮をこめ、ある作曲家は詩的な思い入れをこめる。

    自分で弾くのは、レコードには真実がないからだ。


    それに、私はその作曲家のすべてを知ることにしている。

    作曲家自身が書いた手紙を読む。

    時代柄、彼らはじつに膨大な数の手紙を書いている。
    それを読めば、彼がほかにどんな音楽が好きで、どんな音楽が
    きらいだったかもわかる。

    手紙は本人の精神概念や音楽概念を知る手がかりだ。

    その曲をはじめて弾くときは、ひたすら聴き、ひたすら考える
    そこになにかしら隠されたものがあるからだ。音符を弾くだけでは、音楽ではない。

    その真になにがあり、その曲にどんな感情があり、なにが潜められているか、
    そこまで掘り下げなくてはだめなのだ。

    「弾いているときの私は、誰にも耳を貸さない。私自身のレコードさえ聴かない。
    誰からも何からも影響されたくないのだ。無意識に影響されるのさえいやだ。


    選んだ曲には、いつも、初対面のような気持ちで接し、受け止めていきたいのだ。

    弾いていて、ひとつひとつの旋律がはっきり心に染みとおってくる曲、
    そういう曲でなければ、私は弾けない。絶対に弾けない。


    知性は高すぎてもいけない。音楽家は学者ではないのだ。

    感情過多もいけない。センチメンタルになってしまう。

    テクニック一辺倒もだめだ。それでは機械と変わらなくなる。

    ピアノを使って筋肉強化の体操をしているわけではないのだ。

    (一部、略あり)


    引用元 『普段着の巨匠たち』 ヘレン・エプスタイン 犬飼みずほ




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